低カリウム野菜とは?

国内に1,300万人いると言われている
腎臓を患う方々の現状食生活

専門家の先生にも評価をいただいています

低カリウム野菜は、腎臓が悪く透析患者が食事でのカリウム制限があるために普通に生野菜を食べることを制限されている人のために開発した生食野菜です。
病気になるとつらいのに加えて、生活や食べ物などいろんな制限が加わるとさらにつらくなります。そこで、カリウムが制限されているために生野菜があまり食べれない腎臓機能が悪く食事制限が告知されてる方に、この低カリウム野菜の栽培方法を研究しました。
病気になって食べれないものが少しでも食べれるようになると、少しでも気分が良くなればいいなぁと思いました。ちなみに低カリウム野菜は腎臓が悪い方向けの野菜ですが、元気な方が食べてもいいんです。しかも普通の野菜に比べて美味しいんです。
栽培方法を研究するのは第一歩ですが、これだけでは本当にほしいと思っている人の手元に届きません。
秋田県立大学 生物資源科学部
生物生産科学科 生物生態学講座 教授

博士(農学)小川敦史 教授

カリウムは食事から体内に摂取されるが、腎臓病·透析患者は体内のカリウムを十分に排出することができないため、摂取量を 1,500~2,000mgに制限しないと不整脈により心不全を起こす可能性がある。多くの野菜にカリウムが含まれているため、腎臓病·透析患者は野菜の生食を極力控え、摂取する際には水にさらしたりゆでたりしてカリウムを除去する必要があるが、新鮮重当たりのカリウム含有量を減少させることはできても、カリウムを完全に溶脱できるわけではなく、その一部を除去する程度である。例えば、ホウレンソウの新鮮重1g当たりのカリウム含有量は生葉で7mg、ゆでた葉では5mgである。水にさらしたりゆでたりすることにより、カリウム以外のミネラルや水溶性ビタミンが溶脱、分解する。さらに野菜には多くの食物繊維が含まれるが、腎臓病·透析患者は野菜の摂取が制限されているため食物繊維不足になり、便秘に悩まされるなど、カリウム以外にも野菜摂取の制限による弊害は多い。
  • 定期的な人口透析が必要な透析患者30万人(2012年)
  • 慢性腎臓病患者1,330万人(2008年)
  • 日本の人口の1割が腎臓病であり、国民の死因の第8位
  • 世界では6億人が腎臓病の影響を受けている

野菜のカリウム含有量はなかなか数値化されない

販売されている食品は基本的に、その食品に含まれている原材料等の情報は掲載されていますが、野菜はそうではありません。
しかしながら、現在透析を行っている腎臓病患者の方や、身体が資本となるアスリート等は、食材の細かな数値が必要になってきます。

望まれる低カリウム野菜とは?

このような腎臓病透析患者の食生活を踏まえると、一定新鮮重当たりのカリウム含有量が極力少ない野菜と比較して、収穫時のカリウム含有量が少ない「低カリウム野菜」を栽培することが可能になれば、腎臓蔵病·透析患者にとって朗報であると考えた。低カリウム野菜を水にさらしたりゆでたりすることでカリウムの含有量をさらに減らすことができる上に、摂取量に制限はあるが、生食できる可能性もある。
一方で、カリウムは植物の必須元素の一つであり、生理的機能は、細胞内で物質代謝が正常に行われるための原形質構造の維持や、 pH、 浸透圧調節にカリウムイオンとして作用していると考えられている。したがって、植物体内のカリウムを過剰に減少させることで、植物体内の向上性の維持が可能になり、生育障害を起こすと考えられる。

そこで筆者らの研究グループでは、カリウム欠乏による生育障害を起こすことなく植物体内の向上性を維持し、通常栽培を同じ生育を示しながら、かつ従来の方法で栽培したものよりカリウム含有量が少ない野菜の栽培方法を検討した。可食部の生育に影響を与えることなく、可食部のカリウムを減少させることで、安心して食べることができるようになると考えられている。

通常野菜と、低カリウム野菜のレタス類でのカリウム含有量の比較

レタス類を全く同じ圃場で生産し、普通養液栽培した野菜と、低カリウム野菜専用肥料で栽培した野菜を比較しました。
※新鮮重100gあたりの含有量(mg/100g新鮮重)
通常野菜
低カリウム野菜
ホウ素
0
カルシウム
33.313
41.746
カドミウム
0
0
クロム
0.116
0
0.023
0.036
0.108
0.116
カリウム
約490
約28.00
マグネシウム
20.045
24.410
マンガン
0.119
0.950
モリデブン
0.005
0.000
ナトリウム
5.348
132.520
ニッケル
0
0
リン
37.768
174.644
亜鉛
0.245
0.273
※上記数値は平均的なもののため、確定ではありません

通常生産野菜

385mg~490mg

低カリウム肥料使用野菜

13.00mg~28.00mg

低カリウム野菜の実用化における現状と課題

国の補助金制度もあり、近年、植物工場は安定供給が可能となり、高い安全性·生産性などの点から注目されている一方で、運営にかかるランニングコストが問題になっている。そのため通常の野外農業ではなく、植物工場でしか栽培できない高付加価値で高機能性を持つ作物の生産が求められている。ここで紹介した腎臓病患者のための低カリウム野菜は、 栽培方法の特性から、一般の土壌での栽培はできず、水耕法による栽培が必要である。従って「植物工場でしか栽培できず、高付加価値、高機能性を持つ」という条件に当てはまり、現在までに栽培特許を持つ秋田県立大学に、100社を超える企業から栽培に関する問い合わせをいただいている。
その結果、秋田県立大学と全国の十数社の間で特許実施許諾が結ばれ、実際に全国の植物工場での栽培ならびに販売が始まっており、腎臓病·透析患者の QOL(生活の質)の向上に貢献している。
また、この方法で栽培した低カリウム野菜は、通常の水耕栽培のものより味や食感が良いと感じる意見が多く、今後は腎臓病透析患者だけでなく、野菜が苦手な子どもや一般の消費者への供給も期待できる。

低カリウム野菜の実用化はようやく軌道に乗り始めたばかりで、今後解決しなければならない問題も残されている。一つは、販売されている低カリウム野菜のほとんどがレタス類であるということである。レタス類は植物工場で栽培しやすいため多く栽培されているが、多種の葉菜で低カリウム化が可能であるため、多くの種の実用化が望まれる。さらに、まだ栽培方法が確立されていないカリウム含有量の高いイチゴやスイカなどの「野菜的果物」やイモ類などの低カリウム化に向けての研究が必要である。また、必要としている人への情報や商品が行き届いていないというマーケティング面の課題も残されている。

低カリウム野菜の普及に向けて

低カリウム野菜が腎臓病患者に向けた野菜であるという側面を持つ以上、栽培という「農学」の視点だけでなく、体にどのような影響を及ぼすかという「医学」や「栄養学」などの視点からも消費者に分かりやすく説明し普及していくために、幅広い分野横断的な研究や情報交換が必要となる。
その一環として「研究開発者·栽培者臨床関係者及び利用者相互の交流を促進、野菜の低カリウム含有量化に関する研究の推進及び栽培応用技術の発展、低カリウム野菜に関して腎臓病患者や関係者への情報提供、 および医療的知見の取得に協力することによる腎臓病患者の QOLの向上」を目的として、秋田県立大学を中心に「全国低カリウム野菜研究会」を設立し、2016年3月6日に秋田市で第1回シンポジウムを開催した。